母親は俺が小さい頃に死んだ
俺は32歳の無職で父親は70歳だった
朝起きると父親が布団の中で冷たくなっていた
俺は一人っ子だし親戚付き合いも希薄だから魔が差したんだ
119に通報して「息子が死んでる」って言った
数十分後何故か救急車だけでなく警察も来た
どうやら自宅で死んだ場合は事件性がないか家族に一応確認するらしい
俺は息子が朝食の時間になっても部屋から出てこないから様子を見たら死んでいたと言うような説明をした
その後は病院で俺の死亡診断書を作成して貰って役所に届け出た
俺は半分引きこもりで太っているから老けて見える
父親は現役のころから健康に気を使っていたから年の割に見た目は若かった
それでも死ぬときは死ぬ
死因は心筋梗塞だった
俺は参列者ひとりだけの家族葬を行い父親を火葬した
俺は三流大学を中退してから少しバイトをして後はずっと無職だったから親戚には居ないものとして扱われていた
だから火葬が終わってから親戚に連絡しても何も言われなかった
正直少し悲しくもあったがこれで俺という存在は消えた
俺が入れ替わりをしようと考えたのは父親が俺に医療保険がメインの生命保険をかけていたのを知っていたというのが大きい
死亡時の保険金は1000万円だった
更に父親が退職金や年金を溜めこんでいたのも薄々感づいていた
俺は月に5000円の小遣いしか貰っていなかったからな
父親の貯金は3000万円以上あった
タンスに入っていた父親の通帳の下に封筒があって俺宛の手紙が入っていた
そこには俺のために金を残していること
父親が死んでもこの金で暫くは生活できるだろうが一生は無理だから働けとか
お前はやれば出来る息子だとか書いてあった
俺は父親とそこまで仲が良かったわけじゃないし正直この手紙も説教臭いと思った
当面は保険金と貯金で生活出来る
しかし俺がこの入れ替わりで一番期待していたのはこんなモノじゃない
父親の年金だ
書類上は父親は生きているから年金を貰えるのだ
父親はそれなりの会社に勤めていたから俺は月額にして20万近くの収入源を手に入れた
気を抜くなよお前ら
こうして俺は死んだ父親と入れ替わることによって働かずにまとまった貯金と安定した収入を手に入れた
最初の1年は良かった
ゲームやアニメのBDBOXを買ったりしてこの世の春を謳歌した
人生で初めて風呂屋にも行った
出前で高い寿司を食ったりもした
でもそんな日々も長くは続かなかった
俺の住んでいる地域で高齢者一人世帯の戸別訪問が始まったんだ
最初は適当に追い返していたんだけどあいつら公務員だからかやたらとしつこい
その上最初はお若いですねーとか言ってた癖に最近は俺のことを疑ってるような気がしてきた
それから俺は毎日いつバレるかと不安でその事しか考えられなくなった
いかに戸別訪問のヤツらを騙すか必死だった
それまで楽しかったゲームやアニメに集中出来なくなった
ノイローゼみたいになっていた
ある時俺は全てを明かして楽になろうと決意した
俺は戸別訪問のおばちゃんに俺が俺であることを説明した
一番俺のことを疑ってるように見えたおばちゃんだ
俺の話を聞いたおばちゃんは泣き出した
かわいそうにかわいそうにって
俺は初めは俺のやったことに対して泣いてるんだと思った
でも違った
おばちゃんは息子さんが死んだのを受け入れられないんだね
私たちがいるからねみたいな事を言っていた
どうやら俺は疑われていると勘違いしていたみたいだった
その後も何度も説明したけどおばちゃんは全然信じてくれなかった
その日おばちゃんは結局最後まで信じてくれずに帰っていった
俺はもう父親のふりをするのに疲れていた
夕方近所の交番に行って同じ話をしたけどやっぱり信じて貰えなかった
次の日また戸別訪問が来た
ただいつもと様子が違った
結論から言うと俺は認知症の疑いで入院させられた
入院した病院で検査を受けたけど俺は認知症ではなく重度の虚言癖だと診断された
ようするに誰も俺が俺だって信じてくれなかった
俺は嘘つきになってしまった
俺にはムリだなぁ
半分の年齢の20台に同年代と思われてる
これ世にも奇妙な物語でやってくんねぇかな
誰も信じてくれないって恐怖をねっとりとね
ニートにしては文章がうますぎると思った。
脱帽。
いいね、久しぶりにワクワクした