父はとある分野で著名な人物だった。兄はそんな父を誇りに思っていて褒められたい一心で毎日勉強ばっかりしていた。
兄は品行方正で優しく、頭が良く、本当に非の打ち所がない人物だったと思う。
父に褒められた時の屈託のない笑顔は、年齢よりもずっと幼く見えた。
父はプライドが高く、肩書きに拘り、上昇志向が強い人に見えた。特に自分の地位を脅かすような存在はあらゆる手を使って徹底的に潰すような人だった。そんな父の被害者が良くウチに文句を言いに来ていたのは覚えている。
私は父が嫌いだった。人間的に尊敬出来なかったし、何よりも好きな兄の心中にずっと居座っていることが憎かった。父を盲信する兄を憎みすらした。
大学に進学した辺りから兄は父とギクシャクしだした。兄が父のあらゆる面を凌駕し始めたからだと思う。父は兄を遠ざけて、自分を保とうとしたけれど、兄は食い下がった。
決定的に二人の仲を裂いたのは、兄が父のとある行いに反発した時だった。それまで父が何をしようと盲信していた兄が初めて父を糾弾した。
その瞬間、父は兄にヒステリックに罵詈雑言を浴びせ、暴力を振るった。兄は追い出された。
その後、兄は次第に業界内で頭角を現し始め、逆に父は失脚し書斎に籠り酒を浴びるようになった。
母に手を上げたことがきっかけで離婚することになった。母は兄の元へ行き、私は父について行った。
何で嫌いな父について行ったのか自分でも分からなかったけど、多分父が墜ちていく様を見たかったのと哀れみの情も少なからずあったからだと思う。
兄はいつまでも清廉潔白な人で、一緒にいると自分の醜さを呼び起こされる。だから私も兄の元へは行かなかった。
兄の事は好きだけど同時に怖くて憎くかった。父の気持ちも分からなくはなかった。
晩年の父はすっかり険がとれて柔和な人になっていた。私は兄を呼び出し、和解の場を設けた。
父は兄の現在を聞くと涙ながらに嬉しそうにしていた。父は兄のことが好きだったけれど、当時は周りがみんな敵に見えて息子である兄にも当たってしまったとのことだった。
兄も嬉しそうでなによりだった。憎んでしまうからと兄の同居の提案を断る父のそばで、私は父が死ぬまで一緒にいた。
父親には312がいて良かったよなあ
なんかいい話だった
312の存在が家族の救いだったんだよ。
許すなんて偉いなぁ
312はお父さんの心の拠り所だったのかな
完璧過ぎる人は何か近寄り難いってのはわかる
完璧とは違うけど、俺は無垢な子どもの目を見ると死にたくなる
引用元: 今までにあった最大の修羅場 £112
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