原因は悲劇的でもなんでもない、自分のアパートの外階段から転落したただの事故だった。
打ち所が悪く、死んでしまったらしい。
縁を切っていたので、正直行くつもりは無かったのが、親父側の親戚達から話があると呼ばれた。
母ちゃんとお通夜に向かいながら、人間ってこんなにあっさり死ぬんだなぁと不思議な気持ちになった。
あの時、思いっきり振り下ろした灰皿の感触は確かに鮮明に残ってるのに。
あの悪意に満ちた私の一撃よりも、転んだだけの事故で命はこうも簡単に無くなるのだ。
本当に不思議な気分だった。
親父が死んで悲しいとかそういう気持ちはまったく起こらなかった。
お通夜が始まる前、親戚が集まってる所に呼ばれた。
母ちゃんと私ををいびる叔母達が、懐かしい顔ぶれで並んでいた。
ほんっとにもーーー昼ドラのような嫌味を昔っからねちねち言ってくる叔母共だったが、小さい頃は母ちゃんが良い子にしててねって言うから反発しなかった。
でももう大人だし、会うのこれで最後だろうし、一発かました。
「あいかわらず、母ちゃんさんってば何も出来なさそうな顔してるわね。」
「叔母さんこそ、その醜い心の中が現れるように、年々しわに刻まれていきますね。」
↑
まじで上の会話をしたwwww
ポカーンとしてから、すごい顔でこっちを睨んできていたけれど、別にもう関わりのなくなる人なわけだしね。
どうでもいいよね。
ってかざまぁwwwwww
叔母はどうでもいいので置いといて叔父達から話を聞くと、親父は私と母ちゃんが出ていってから、1年半ほど一人で住んでいたらしい。
独り身なのになぜ住み続けたかというと、もう保証人になってくれる人がいないから、家が見つからなかったらしい。
このころの親父は本当にもうお金がまわらず、周りに誰もおらず、引きこもりみたいな生活をしていたそうだ。
そして、なんとかアパートを見つけてでていったが、3人で住んでいたあの家は家賃滞納しまくり。
親父がアパート引っ越してからも管理会社が親父の元へ再三催促はもちろんしたが、無い袖はふれないからね。
そうすると、保証人に話がくるわけね。
そう、あの3人で住んでいた家の連帯保証人は母ちゃんの親戚だったのだ。
母ちゃんの親戚は、もうこちらは関わりがないのだから家族のそっちがなんとかしてくださいと叔母達に言ったらしい。
んでなんかそのへんでぐちゃぐちゃ揉めているので1と母ちゃんが払えよ、ということだった。
完全に誤算だった。
というか私が甘かった。
あの親父のことなんだから、こうなるかもしれない可能性を考えなければいけなかったのに…。
母ちゃんの親戚にはさんざん迷惑をかけている。
本当にもうこれ以上迷惑はかけれないんだ。
ということで、1が払うことになった。
みんな、覚えていて欲しい。
レアなケースなのかもしれないけど、
世帯主:父親
保証人:母親の親戚
この場合、両親が離婚したら、母親の親戚は、
「もう関わりのない人物だから、連帯保証人を降りる」
ということが出来るそうだ。
(後日管理会社と話をしてたら教えてくれた。もう遅いけどwww)
金額自体は50万強だったけれど、とても重たい気持ちになった。
あぁ、この親父は、離れてもいる人間も食らい尽くす生き物なのだ。
離れていたって、いつこうやって巻き込まれるかわからない。
生きてる限り、ずっと。
正直な気持ちを言う。
親父が死んで、安心したんだよ。
死んだ人を悪く言ったらいけないって言われるよね。
死人に鞭打つなって。
でもさ、死んだら生きてた時のこと全部軽くなるの?
私の気持ちがいつか柔らかくなるその時が来るとしても、死んだからと言ってそうなるなんて許さない。
お通夜の最中、そう思ってた。
お通夜の帰り、いろんなことを考えてしまって頭がぐるぐるして、だんだんと胃が痛くなってきて、堪えながら家に帰った。
その日からずっとその痛みが続き、身体がお酒を受け付けなくなった。
痛みは波があったが、強いときは仕事にならなかった。
誤魔化しながら、誤魔化しながら、なんとかやっていた。
いつの間にか私は21になっていた。
ある日の朝ごはん中に、母ちゃんが突然言った。
「なんか第六感がして検査に行ってきたら、ガンの可能性ありだって」
普通の会話の流れでいきなり言われたから、味噌汁落として母ちゃんに怒られた。
母ちゃんいわく、なんか第六感がしちゃって市でやってる?
無料の検査に行ったら、要精検って書かれた紙もらったと。
唐突過ぎて、あまりにも母ちゃんが普通に言い過ぎて、頭がついていかなかった。
ぐ… なんか>>1のいう山場の意味がわかったような…
なんの検査かと言うと、子宮ガンである。
母ちゃんは元々生理がかなり重い人だった。
子宮筋腫もあると前から言われてはいたが、筋腫は多くの人がなるものだし、閉経すれば収まると医者に言われていたので母ちゃんもあまり気にしてなかった。
でも、思い返してみればここ数年、血があまりにも止まらなかったり、レバーのような血の塊が大きすぎたり、色々と症状は出始めていたのだ。
筋腫のせいだと思って母ちゃんも私も気にしていなかった。
大きな病院に検査に行った。
ここにきても私はあまり実感がわかなくて、ふわふわとしたような、なんだか別の意思で身体が動いているような、そんな感覚だった。
胃の痛みは相変わらずで、その痛みだけはやけにくっきりとしていた。
母ちゃんはいろんな検査をし、2週間後にまたきてくれと言われた。
こういう精密検査って結果出るのに2週間もかかるんかい…って感じでげんなりしていたけど、母ちゃんはのほほんとしていた。
「母ちゃんハンバーグ食べて帰りたいなー」
「あぁ、うん。そうしようか」
ごはん食べながら母ちゃんに聞いた。
「母ちゃん、なんでそんなに普通なの?怖くないの??」
「なんかね、母ちゃん第六感がきたんだよね!あ、検査に行かないといけない気がする、ってさ。それで調べてたら、突然今入ってる保険のグレードアップの通知が来たの。今まで何年間も健康だから、何かあった際の保険の内容良くさせていただきますねって。そんで母ちゃん思ったの。あ、これは、このタイミングは、母ちゃん何か大きい病気になるんじゃないかって。なんだか頭の中ですごくしっくり来たから、母ちゃん別になんとも思ってない。人間誰だって、そうなる時はそうなるんだし。」
母ちゃんはすっきりした顔で答えた。
こっちは相変わらず頭がついていかなかった。
2週間後、こないだとは違う医者が淡々と検査結果を述べた。
「子宮頸ガンですね。」
…まぁ、最初の検査結果の時点で既にランク?が5なんちゃらって言われてたし、ガンで間違いないのは覚悟していた。
「そして、表面だけではなく、浸潤ガンです。上皮ガンは表面のあたりだけですが、浸潤ガンというのは深く浸透しているガンのことをいいます。」
それからの医者の話はまったく聞こえてなかった。
医者に聞いた。
調べてきたことが間違いないか聞いた。
「先生、子宮ガンって感染源があるって本当ですか?」
「子宮頸ガンはヒトパピローマウイルスの感染による発症であることが多いですね。ほぼ性行為によるものです」
ちょっとうろ覚えだけど、医者は淡々とこう言った。
暇な人は子宮頸ガンについてググってみてくれ。
つまり、性行為で誰もが触れる可能性のあるHPVウィルスというのがあり、それはかなり多くの女性が触れたことのあるウィルスだと。
ほとんどは免疫で排除できるが、免疫で排除出来ない場合、子宮頸ガンを発症させる可能性が高いと。
こんな感じだと思う。
説明が間違ってたらすまない。
母ちゃんだって親父と付き合う前に付き合ってた人とかいただろうし、誰からとかそんなんは絶対わからない。
でも、その時の私の頭には、強烈に親父の顔が浮かんだ。
確証なんてない。
こんなこと考えても仕方ない。
恨む矛先が欲しかっただけかも知れない。
でも、絶対、あいつのせいな気がする。
だって、お通夜での滞納家賃のことだってそうだけど、離れていても人を貪るようなやつなんだ。
死んだって、母ちゃんを貪っても不思議じゃない。
一人で死んだから道連れが欲しいの?
自分のおもちゃだった私達が離れてそんなに憎い?
胃の痛みが、増した。
強烈な痛みが襲った。
いろんな思いが駆け巡った。
母ちゃん。
交換日記。うさぎ。
幼い頃の不審行動。
他人に向いた行動。
いじめ。
返って来たこと。
勉強。
お酒。
暴力。
罵声。
怒鳴り声。
血の匂い。
痣。
苦手になった大きな音。
ギャンブル。
煙草の匂い。
母ちゃんの匂い。
母ちゃんのごはん。
元彼との思い出。
家出。
俺が、殺してきてやるよ。
陶器の灰皿。
ガラスの灰皿。
死んだ親父。
変わらず降りかかる親父の影。
叔母さん。
バット。
八つ当たり。
ホステスさん。
元彼との最後の会話。
濁ったあの目。
変えてしまった彼の人生。
ガン。
お金。
お金。
お金。
水商売。
保険。
同じ名前の女。
生みの母親。
母ちゃん。
母ちゃん。
かあちゃん
ばーーーーーーーーーーっとたくさんの記憶と、思いと、色んなものが頭を駆け抜けた。
胃の痛みがピークになって、眩暈がして、倒れた。
重たい瞼を開けたら、ベッドにいた。
口がカラカラに渇いて、うまく声が出そうに無かった。
腕にはなんか点滴のようなものが刺さっていた。
最初は胃腸炎かな?って言われたけれど、結局、神経性胃炎だと言われた。
出された薬を飲むとピタっと痛みは止まるけれど、薬の効果が切れてくるとまた痛み出す、そんな感じだった。
しばらく母ちゃんと同じ病院で入院することになった。
うちの精神科にいってみてねって言われた。
最初に絵書かされたり、質問に答えたり色々やった。
すぐに退院したけれど、退院した後も通院した。
カウンセラーの人と担当医師と相性が良かったからか、通院とカウンセリングは嫌だと思わなかった。
吐き出す場所が、必要だと思った。
母ちゃんは、
少ない症例?らしいので特定避けであまり詳しくはかけないけれど、転移があったり手術を受けたり色々してた。
お金は高額医療申請でなんとかなってた。
もうこの辺の記憶はぐちゃぐちゃで前後が曖昧だ。
ここに書いてきたほどではないけれど、カウンセラーの先生と一緒にゆっくりと自分の人生を振り返った。
数ヶ月かかってこの辺まで振り返って、少し、冷静になれた。
自分の中で腑に落ちたことがたくさん出来た。
日々はねばつくようなゆっくりとした感覚で流れていった。
つい数ヶ月前、母ちゃん側の親戚で唯一年の近い
いとこの姉ちゃんと話をしていた。
昔から仲が良いので、色々とぶっちゃけた話をしていた。
「1ちゃんはさぁ、全部を繋げて考えすぎだよ!一度全部切り離して考えてみなよ。母ちゃんは優しいから、私を育ててくれたから、だから借金があっても協力しないといけないって思うようにしてた。そうだよね?母ちゃんさんが優しいのは一つの事実だよね。でもさ、それと借金のことは別のこと。借金のことだけ見たら、男の為に借金しまくったただの駄目女でっしょー!そこは普通に怒って良いとこだと思うし、でも優しいところは好きでいればいい。育ててくれたことには感謝すればいい。マイナスな事態に対して、他のプラスのことを理由に乗り切ろうとするから途中でがんじがらめになるんだと思うよ。もっと怒れ怒れ!泣け!ww」
この記事へのコメントはありません。