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480: 1 2010/09/12(日) 05:35:46.74 ID:Kd5WzAli0
自分の降りるべき駅に着いたが、そのまま終点まで行ったのを覚えている。 
そして何でもいいから気分転換に遊ぼうと思ったが、 
全く俺には自分を持ち上げられるだけの発想が光らなかった。 
金もなかった。 


町の花壇の柵に腰を掛けて、携帯を無意味にいじった。 

まだ返信していなかったメールに気付く。 
友人からのメール。 
「今度晴れて結婚することになった。ぜひ式に来てください」 
という内容のもの。 


目に涙が浮かんだ。 
俺は行けない。 

夢に敗れても友達は友達。 
でも「今なにやってるの?」「漫画は順調?早く読ませてよ」 
たったこれだけの質問が怖くて、俺は友人の晴れ舞台を見守ることを拒絶してしまった。 


家に帰ったのは朝方だった。

504: 1 2010/09/12(日) 05:45:51.98 ID:Kd5WzAli0
ひとつの出版社でダメでも別の出版社に持ち込め。 
…というのはよく言われていること。 
今手元にある原稿も別のところに持ち込めば光がさすかもしれない。 
現に回る出版社の候補は色々あった。 
3つくらいは回ってみようと思っていたのだ。 

しかしあの編集のあの態度に打ちのめされた俺は、
急に自分の原稿がつまらないもののように思えてきた。 
一年間も掛けて仕上げた力作。 
この一年、この作品が俺の全てだった。 
しかし、この作品は誰の目にも留まらず、 
誰からも読まれない。誰も必要としていない作品だった。 
この作品を呼んだのはこの世界でたったの二人。俺と編集さん。 
そのためだけの作品となってしまった。 


持ち込みする気力を失ってしまった俺は、
処分するつもりで別の雑誌にその原稿を投稿したが、 
授賞する確立は低かったし、授賞したとしてもその道のりを考えると辟易とした。 

つまり、これが俺の最後の作品。 
夢は破れた。

513: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 05:48:29.47 ID:whCIEHKI0
面白ければ読むだけだろ

518: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 05:51:06.74 ID:tZYoZMTy0
日本のマンガレベルの高さが異常というのはあるが 
こんなにも報われないものかね? 
さすがにいたたまれなくなってくるわ

527: 1 2010/09/12(日) 05:55:47.06 ID:Kd5WzAli0
翌週にはアシスタントの仕事があった。 
もはや俺の獲る道は一つだった。 
アシスタントを辞める。漫画業界からも身を引く。 
26歳職歴なしだけど、あの現場に一年耐えた俺ならどんなブラックでもやっていけるだろう。 
今はただ、本当にただ、
「俺は今~~やってるよ!」と胸を張って言える何かが欲しかった。 

今までの自信満々の頃の俺を知ってる知人にはしばらく会いたくないけど、 
いつか自分に自信が持てるようになったら連絡を取ろう。 
一発逆転なんて夢は無くても。 
慎ましやかな人生で良いから生きていこう。 
まずはハローワークにでも登録しようか。 

…そう思うと、割と清清しい気分になれた。 

そして翌週の仕事日。 
アシスタントさん全員とT先生の前で「仕事をやめます」ときっぱりと伝えた。

541: 1 2010/09/12(日) 06:03:03.41 ID:Kd5WzAli0
虚を突かれたという感じでT先生は「え?どうして?」と言った。 
「見切りを付けました。漫画家は諦めて就職します」と答えたら、 
それ以上は何も言わなかった。 
周囲のアシスタントさんも何も言わなかった。 
俺は依然最も叱責される回数が多かったし、 
他のアシスタントさんには単なる逃げ口上のように響いたのかもしれないけど、 
その言葉にウソはなかったから凛として発言できたんだと思う。 


そして俺は完全なニートになった。 

気が抜けて一ヶ月くらいは何となくハロワの募集ページを見るだけの日々を送っていた。 


そんな時に再び、一本の電話が鳴り響く。

552: 1 2010/09/12(日) 06:08:49.67 ID:Kd5WzAli0
「おめでとうございます。当社に応募いただきましたあなたの作品が入選に選ばれました」 


なんですと!!? 



それは最後のあの原稿を投稿した出版社からだった。 
26歳職歴なし…これは本当に社会にギリギリなんとかまだ頑張ればカムバックできるかもしれない状態だ。 
今、引き返せばまだ…、でも…、でも…。 


希望は時として絶望以上に残酷だったりする。 



次章 そして破滅へ編

553: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:09:32.19 ID:zk5KfcJm0
ここから破滅とな!!?

555: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:09:39.63 ID:KXh0ABSfP
次章とかいいから。

558: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:10:15.69 ID:y/NGrPV1O BE:1375820238-2BP(991)
最終章なのか?wktk

561: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:10:31.00 ID:VDTcXNKt0
まだ続くのかよ

565: 1 2010/09/12(日) 06:11:25.13 ID:Kd5WzAli0
引っ張り過ぎてごめんなさい。 
自分でもこんなに書くつもりが無かったもので…。 

付き合ってくれた人はありがとう。 
次章!とか書いたけど続きは書くか分かりません。 
でもここまででも随分破滅的な人生だと思うので、 
それで何とか納得してください。 

ありがとうございました。おやすみノシ

573: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:12:51.14 ID:BDmGjLuX0
>>565 
 それは流石にふざけるなw 
はよ書け

651: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 07:07:56.37 ID:p/A9kQio0
全部読んじゃった 
>>565 
 破滅的ー?そうか?挫折=破滅かよ 
あんまり悲劇的自分に酔わないようにな

575: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:13:03.23 ID:whCIEHKI0
おいおい、ここまで書いたなら最後まで頼むぜ

576: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:13:15.38 ID:5L6hCjQB0
本物の場合、絵をあげたら知ってる人から特定されそうだなw

585: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/12(日) 06:15:51.07 ID:VfmG0zpl0
特定は不味いな確かに

891: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 01:45:26.88 ID:70SP5ymf0
早く来て~ぇん

897: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 02:27:17.85 ID:kzyGVLIF0

898: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 02:46:54.68 ID:8r/pNsLO0

899: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 02:58:09.31 ID:LiIHy7E00

900: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 03:40:41.72 ID:EBLEgz9j0

934: 1 2010/09/13(月) 10:37:53.83 ID:JrcmVwWj0
保守してくれてありがとう。 
1~2時間後くらいに続き書きます。

936: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 10:44:14.23 ID:zK9HNjmy0
きたああああ、まってたよおおおお

937: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 11:21:07.03 ID:8ye29wMB0
うわああああああよかった待ってて

943: 1 2010/09/13(月) 12:37:30.94 ID:JrcmVwWj0
別の雑誌に投稿したことで俺の作品が入選を獲った…ということには本当に驚いた。 
「雑誌によって評価は異なるから色んな所に持ち込んだ方がいい」という意見はよく耳にしていたが 
正直そんなことは信じていなかったからかもしれない。 
大抵、一人に見せてダメなものは何人に見せてもダメな筈だ。 

しかし、まさかわが身にそういうことが起きるとは思っても見なかった。 

本当に大袈裟だけど、まるで神様が
「もうちょっとだ、頑張れ」と引き返す俺の背中を引いてくれたような、 
そんな気さえした。 
なんてことだ…これから就職活動に本腰を入れようとした矢先に…。 


引き返すか…それともこの流れに身を任せるか… 
意外と悩みはしなかった。 

授賞の連絡を受けた際、俺はその編集さんと一度お会いするという約束を取り付けたからだ。

947: 1 2010/09/13(月) 12:50:02.26 ID:JrcmVwWj0
突然の電話でびっくりしたということもあり、会う約束の日は電話のあった翌日に設定してしまった。 

初めての訪問にはいつも一時間くらい前に到着するようにして、 
近場の喫茶店やコンビニで時間を潰すのがクセになっていたが、 
この日は時間ギリギリに伺ったのを覚えている。 

編集さんは俺より年齢が下の若い男性で、新米編集だった。 


そのせいかこちらにとても気を遣い、
なんていうか作家扱いしてくれているというような感じだった。 
気を遣われるのは苦手だとか今までずっと思ってたけど、 
その編集さんの丁寧な態度に触れ、その考えは覆った。 
今まで俺が出会った、どの編集さんよりも腰が低く丁寧な編集さんで、 
俺はその人と話をするということが本当に居心地良かった。 


その日は顔合わせのみ…というような簡単な挨拶だけにとどまった。 
編集さんの「次は新作ネームを描きましょう」という言葉に思い切って 
「連載用ネームでもいいですか?」ときいたところ、 
「もちろんokですよ。読み切りを載せても結局最終的にやることは同じことですからね。 
連載を狙っていきましょう!」と言ってくれた。 


また連載用ネームが切れる。 

その日の帰りの電車は、本当にいろんなことを考えた。 


951: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 12:54:32.23 ID:/F4WeF1Z0
新人編集者は地雷だってバクマン。先生が言ってた

952: 1 2010/09/13(月) 12:55:45.21 ID:JrcmVwWj0
先にも述べたけどその時俺は26歳だった。 
27歳になるまでは約半年間の猶予があった。 
その半年を、最後の夢の猶予にしようか…と思った。 

捨てた命が思いもかけず蘇ったような、そんな心地がして、 
なんていうか凄く爽やかな気分だった。 
夢を諦めるということが怖くなくなっていたからかもしれない。 
まるで18歳の一番最初の頃のような、あの新鮮な気持ちが蘇ったような気分だった。 


そして俺は再びその半年間アシスタントをすることを決意した。 
といってもT先生の下に戻るというわけではなく、新しい現場を探す方向で考えた。

953: 1 2010/09/13(月) 13:04:43.98 ID:JrcmVwWj0
業界の人には有名過ぎる某アシスタント募集掲示板にて色んな作家さんの求人を見た。 
どこの求人の条件もT先生の現場に比べたら給料も高く、拘束時間も短かった。 

正直お金が稼げるなら現場はどこでも良かったんだけど、 
やはり行くからには役に立ちたいし、
あまりにレベルの高過ぎる現場はまたゼロからスタートになりそうで敬遠した。 

「イチからやってやるぜ」というかつての若い気力は、この時にはすでに枯れていた。 

そして、これは同じような経験をした人にしか分からないような感情かもしれないけど 
煌びやかな道を行く作家さんの下にも行きたくはなかった。 

当時はまだ『バクマン』は連載していなかったけど、もし当時連載していたとしても 
俺は読むことが出来なかったんじゃないかと思う。 


かくして、俺はマイナー誌の作家の元でアシスタントをすることになった。

961: 1 2010/09/13(月) 13:14:58.15 ID:JrcmVwWj0
出迎えてくれたのはS先生。(※アルファベットは適当です) 


S先生の下には二人のレギュラーアシスタントがいた。 
Eさん:22歳・女・かわいい 
Fさん:35歳・男・中背中肉・いつもにこにこしてる 

俺は3人目のレギュラーアシスタントとなった。 


これも業界の人にとっては常識的な話だけど、 
アシスタントの世界も割と狭いので、
俺はT先生とつながりがある人がいたらどうしようかと内心びくびくしていたけど、 
結局それは杞憂に終わった。 

S先生は40歳の大台に乗っていたけど、いかつい感じは一切なく、 
見るからに温和な人で、内面的にもその通りの人だった。 


早速俺が書いた背景を「上手い」と褒めてくれたし、Eさん、Fさんも「上手いねえ~」と互いに盛り上がってくれた。 



アシスタント現場にもこんないい現場があるんだ…!! 


衝撃だった。

969: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 13:27:06.34 ID:JrcmVwWj0
その日からの俺の日常は今までの暗黒期がウソのように輝き始めた。 
いつも何かにせかされているような、あのドス黒いモヤが晴れ渡っていた。 


その新人編集さんとの打ち合わせや、アシスタント、 
どこに行っても皆が優しかった。 
仕事も楽しく取り組めた。 


ただこれまでのように、今までの友達とはもう意識的に連絡は取らなくなっていった。 
詰まるところ俺を今まで苦しめてきたのは、
俺がこうありたいと願う「体裁」だとうすうす気付いていたからだと思う。 
俺は俺の痛い恥ずかしい過去を知る人間と距離を置き、
全て新しい人間関係に身を投じ、 
その心地よさに溺れていった。 

俺が何より楽しいと感じていたのは、Eさんとの時間だったのかもしれない。 
Eさんはとにかく明るく、可愛かったので、長く作業が続く日でも全く苦にならなかった。 


どれくらいからきちんと意識し始めたのは分からないけど、 
もしかしたら出会ったその日のうちに、俺はもうEさんのことが好きになっていたのかもしれない。

970: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 13:28:45.52 ID:8ye29wMB0
>>969 
 おま・・まさか・・・

977: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 13:37:12.02 ID:P7uq1eip0
実際ここまでだと、好きな業界で好きな事しながら生きていけてるんだから 
まぁそれなりに悪くない人生にも思える

978: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 13:38:19.39 ID:JrcmVwWj0
アシスタントというのは、もう四六時中ずっと同じ空間にいるわけで、 
それが殆ど毎日となると、身の上話など殆どしてしまうケースが多い。 
出身地から中学の部活。高校は?恋愛は?兄弟は?仲は?趣味は? 
嫌いな食べ物は?他人の許せない行為は?などなど。 

中でも当然真っ先に話題に上るのが漫画の話。 


Eさんは俺と同じく少年漫画家志望だった。 
しかもメジャー路線。 
S先生が連載していたのは少年誌とも青年誌とも言い難いマイナー誌で、 
一体どうしてそんな子がここにアシスタントに来たんだろう?という疑問を最初は持ったが、 
彼女曰く、友人の紹介らしかった。 
アシスタントの世界は本当に裏で色んな人が色んな人と繋がってる。 

俺がアシスタントに入り、3ヶ月くらいが経った頃だろうか。 
俺とEさんはそれとなく一緒に帰るようになり、 
それから急速に仲が良くなっていった。 

そして、自分の中で設けた期限、半年はあっという間に経過した。

982: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 13:47:53.26 ID:JrcmVwWj0
半年を掛けて作った自分の連載用ネームは、自分でも納得のいく出来だった。 
しかし、これを担当編集が編集長に持っていったところ、ボツになった。 

当然ショックだった。 
いわゆる典型的少年漫画から少し斜めに外したような路線で、 
でも自分が心から書きたいと思っていた内容だったからだ。 

そして、もう一つ、この頃自分の中で結構大きな問題だったのが、 
Eさんと俺の差だった。 


Eさんは22歳にして既にデビュー済み、読み切りも何度か載せ、 
人気もある程度獲得し、連載用ネームを切っている最中だった。 

Fさんも関してはマイナー誌で少ないページの連載を持っている人で、 
現場で俺は圧倒的な劣等性だったのだ。 

S先生を交え、彼らが時たま繰り広げる「上での会話」に何とか俺も参加したい…と思っていた。 


ネームはボツになったが、俺は就職活動に向かわなかったし、この生活を捨てはしなかった。 


そして俺は27歳になった。

985: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 13:55:50.82 ID:JrcmVwWj0
S先生もFさんも、暗に俺を気遣ってくれてはいたんだと思う。 
なかなか上手くいかずあえいでいる俺のプライドをへし折るような発言は殆どしなかった。 
俺がナーバスになりすぎて勝手に傷ついてるだけということが数回ある程度。 


ただ、Eさんは違った。 
自分の才能を全開で謳歌していた。 
若くして世に認められつつある自分を誇りに思っていた。 
そして、そんな自分の嬉しい気持ちを無邪気に俺にもばらまいていた。 


ネームがボツになってからだったと思う。 
自分の心の中に再び悪い「気」のようなものが渦巻いていったのは。

986: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 13:57:29.65 ID:TE+MY3fT0
さあ、盛り上がってまいりました・・・

989: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 13:58:21.83 ID:k5KXGoRb0
漫画家って本当にきつそうだな~ 

たくさん金貰えるのは一握りだし 
本当にマンガを描く事が好き、ってなきゃやってられなさそうだ

995: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:05:56.68 ID:JrcmVwWj0
それと反比例するようにEさんは俺に対して積極的になっていった。 
ひとたび「漫画」を離れると普通の男と女になる。 
そしてその瞬間、俺はまたEさんに惹かれていくのだ。 

2週間くらいのちに俺はEさんと付き合うことになった。 
同じ現場での付き合いなので周囲には隠しながら…ということにはしたが 
嬉しかった。楽しくもあった。 
彼女ができるのは本当に久しぶりで、長らく忘れていた、何ともいえないようなときめきが本当に胸の中でごうごうと燃えた。 


だが同時に、何か、背後からグイグイとせかされるものもあった。 


早くしなくちゃ…。 

と漠然と思っていた。 
何をかは良く分からなかったし、
俺の求めるものは一朝一夕でどうにかなるものでもないのも知っていた。 
でも早くしなくちゃ…。 

俺は久しぶりに出来た彼女とデートもすることなくネームに没頭した。

999: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 14:07:30.69 ID:/F4WeF1Z0
まさか恋愛話まで絡んでくるとは・・・


15: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:17:16.23 ID:zzIIcbc0
一方Eさんのうほうは絶好調だった。
恋愛も上手くいき、仕事も上手く行き、彼女は本当にキラキラしていた。

「今度読み切りの掲載が決まりました~~!!」
というような報告を皆の前でしていたこともあった。

S先生やFさんは「すごいね」と心から祝福を送っていた。
俺も醜い本心を悟られぬよう全開で笑顔を作って賛辞を述べた。
Eさんはそれがまた嬉しくて、大船に乗ったかのような景気のいい発言を並べていった。


「彼女」としては当然なのかもしれないけど、
Eさんはやはり俺に一番褒めてもらいたいようだった。
俺もそれに応じていたが、段々とそういう関係が心苦しくなっていった。

22: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:21:50.49 ID:zzIIcbc0
自分にも経験のあることなのでよく分かるのだけど、
漫画家志望の若い奴…特にある程度の結果を収めている奴は本当に威勢がいい。

自分のことを天才だと本気で信じていて、
自分がいつか漫画界に名を残すような漫画を描くと本気で信じている。


俺がEさんとの間に決定的な溝を感じるときは、大体決まっていた。


それはEさんが自分のことを「漫画家」として発言するときだ。

23: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 14:24:13.94 ID:Z9hOjs.0
もうコレ漫画にしろよ

24: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:25:05.28 ID:zzIIcbc0
「漫画家」の定義は定かではない。
ライセンスがあるわけではないし、同人作家でも漫画家を名乗る者は結構いる。
ある者は読み切りが一度掲載されればそれでもう「漫画家」だと言っていた。


そしてEさんはそういう定義を自分の中で定めていたらしい。


そして、俺は、



「漫画家」ではなかった。

27: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:30:50.81 ID:zzIIcbc0
編集部から依頼される小さな仕事は何度かこなしていた。
読み切りというには短過ぎる漫画も載せたことはあった。
だが、「漫画家」というにはあまりに小さな仕事だった。


そして、Eさんは、確かに「漫画家」を名乗ってもいいだけの経歴だった。


Eさんの「やっぱり漫画家になるとそれまでとは違う『責任』みたいなものが
大きくのしかかってくる感じがするなぁ」というような他意のない発言にも俺は


「そうなんだ」と相槌を打つことしか出来なかった。


「俺にはまだ分からないや。早くそういう感覚が理解できる位置まで行きたいよww」
とはどうしても言えなかった。どうしても。

33: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:38:51.08 ID:zzIIcbc0
一度、Eさんに誘われて「漫画家志望者同士の飲み会」なるものに参加した。

そこに来た連中は皆、俺の持ち込む雑誌よりも遥かに有名な雑誌で、
デビュー、短期集中連載、連載などを獲得している新人だった。

そして、殆ど全員が、俺よりも若かった。


どいつもこいつもキラキラしていて、俺よりも数段上の高みにいて、
年上なのに俺は萎縮してしまった。

「俺さんはどこに持ち込んでいるんですか?」→「あ、××です」
→「へぇそうなんですか。もう掲載とかはされてるんですか」
→「あ、いえ、まだ…ちょっと上手くいかなくて」
→「…あ~~…、実際大変ですもんね。ネーム通すのって。実は俺もこないだぼつあdjヴぁvにdh」

というような流れが大体だった。
せっかく出来た彼女の前で、格好付けることも出来ずに背中を丸くしているだけの自分が本当に情けなかった。


そして第二回目の連載用ネームが完成した。

46: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:44:59.74 ID:zzIIcbc0
結果はまたしてもボツだった。
これさえ上手くいけばまだ何とか自分を保てるというギリギリのラインだった。
しかし結果はボツだった。

実は新人漫画家にとって担当編集というのはかなり重要で、
担当編集の力・権力が大きくその後の道を左右したりするのだ。
俺の担当編集は優しかったが、新人だった。
そういった権力はほぼ無いに等しかったと思う。
かといってそれを敗因だと決め付けてしまうのは愚かだとも思う。
どうあれ、俺の作品は、ボツになった。


第一回の連載用ネームがボツになってから、気が付けば8ヶ月が経っていた。

55: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 14:54:09.26 ID:zzIIcbc0
これで俺の紐はぷつりと切れた。
でも担当編集、S先生、Fさん。そしてEさん。
俺を取り巻く環境・人間は依然として優しく、暖かかった。


気が付けば、それが俺の全てだった。

既に他に友人はいなかった。
俺が切り捨ててしまったんだ。
高校のとき、ミュージシャンを目指すと言っていた彼も、今は普通に就職してしまった。

俺だけが、一人取り残されてしまった。

ずっとせき立てられていたあの「早くしなくちゃ」という感情は、
おそらく「早く引き返さなくちゃ」ということだったんだと思う。
でももう遅い。

気が付けば俺は、もうすぐ28歳だった。


何もなしていない。職歴も資格も無い。28歳。


その日から約1週間後、俺は初めて精神科に行った。

61: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:00:02.96 ID:c9L4CGYo
あぁ・・・これ読んでたら
なんか>>1と同じような状況になりかけてる俺涙目・・・。

63: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:02:04.44 ID:zzIIcbc0
精神科の先生は優しかったが、当たり前だけど俺に連載を与えてくれるわけではなかった。
だから先生の言うことは何一つ根本的な解決になっていないように思えた。
先生から処方された薬も助けになっているのかどうか良く分からなかった。

でも睡眠薬はとても有難かった。

これのお陰で少なくとも俺は夜眠ることが出来た。
そして、既にこれが無ければ眠れない体にもなっていた。


今思うとこんな状態になったのならすぐにでもアシスタントをやめるべきだったのかもしれない。
でも、アシスタントを辞めてしまえば俺は本当に一人。

外界と一切のリンクがないニート。

Eさんとも別れることになってしまう。
いや、その説明をまずEさんにしなくては…。


俺を取り巻くごくわずかな周囲の人は優しかった。
そのお陰で俺は半ば自動的に人間らしい生活を送ることが出来ていた。


でももう漫画は描けないでいた。

65: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:04:40.91 ID:c9L4CGYo
>でももう漫画は描けないでいた。
あぁぁぁ・・・鬱になるぅ・・・orz

67: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:09:43.46 ID:zzIIcbc0
遂に28歳を迎えてしまった俺…。

そんな中Eさんは遂に連載を獲得した。
俺が恐れていた日だったが、もうこの日が来るのは誰の目にも明らかだった。

おめでとうと周囲から称えられ、笑顔で応じるEさんは可愛かった。

就職しよう…と思った。
やってやれないことは無いはずだ。
就職して、そして、Eさんと結婚でもしよう。

漫画のことは完全に忘れたいけれど、これだけ世の中を沸かしている漫画を一切目にも耳にも入れずに生きていくなんて不可能だ。
ならばいっそ、俺の夢はEさんに託して…。

そんな風に思って、再びハローワークのHPを覗く日々が始まった。


そして遂に、決定的に俺が崩壊する日が来た。

69: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:12:22.23 ID:c9L4CGYo
あー・・・なんとなく・・・
先の展開が読めるぞぉ・・・?
嘘だよな・・・?
それだけはないよなぁ・・・。

74: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:14:39.36 ID:6b1q4sU0
Eさんのアシスタントして生きていく人生もいいよね

75: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:17:29.98 ID:zzIIcbc0
その日はいつも通り、アシスタントに入っていたのだが睡眠が切れてしまっていた。
睡眠薬は処方される数が制限されているのでこういうことはしばしば起きた。

冬の寒い日で暖房のタイマーも切れ、空気が再び寒くなるまで俺は眠れずにいた。


3時間は眠れなかったと思う。
空腹を感じたので俺は近所の牛丼屋に行くことにした。
すぐ隣で眠るS先生を起こさないように、慎重にドアを閉めた。
こういうことは何度かしていた。


雪の降る深夜、駅前まで歩き、牛丼屋に入店する俺。
帰りにコンビニにも寄り、仕事場に帰ったのは1時間後くらいだったと思う。

EさんやS先生を起こさないようにそっと扉を開けた。

78: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:19:44.92 ID:NbQ8ik60
おいまさか…

79: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:20:10.58 ID:Z9hOjs.0
女は怖い生き物やで~

80: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:21:12.77 ID:zzIIcbc0
「?」

帰ってきた俺は一瞬首を傾げた。
俺が出て行くときにあったS先生の姿がなかったのだ。


…?

こんな夜中に外へ出て行ったのか?


先生も牛丼を…?いや、コンビニかな…?


息も凍る真夜中。
ふと柱の梁がミシッという音を立てる。


「…?」

84: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:22:41.09 ID:kPvXvugo
S先生とFさんが関係持ってたのか…

87: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:23:37.97 ID:GLcdCBI0
先生は悪くない 悪くないんだってばよ

89: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:24:19.50 ID:zzIIcbc0
微かな音はふすま一枚挟んだEさんの寝ている部屋から聞こえてきた。


…え?


…?



俺の心拍数は急速に上がっていった。

うそでしょ?まさかそんなことないでしょ?


布団がこすれるような、本当にごくわずかな音だけが聞こえる。

声は聞こえない。


俺はしばらくその場に立ち尽くした。

93: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:26:29.31 ID:SY0O9Vwo
心が痛い……

94: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:27:08.80 ID:zzIIcbc0
確信が得たい…


と思った。


このふすまを開けてしまいさえすればハッキリする。


だが、


俺の体は信じられないくらい震えて、遂に手は動かなかった。



そんな俺が次にとった行動は、なんと普通に元の自分の布団に潜り込むことだった。


「なんで…?え…?」

98: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:30:01.11 ID:zzIIcbc0
今止めれば間に合うかもしれない


…と思った。

でも俺の体は動かなかった。
それどころかこんな状況にもなって、証拠・確信を掴もうと耳だけは澄ましていた。

音が止んだかと思うと、また布団のこすれるような音がする。

その繰り返し。


なんで…?


何故? と思った。

103: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:32:31.31 ID:zzIIcbc0
何故俺はこんな状況にもなってこんな卑屈な態度なんだ?


でも答えは最初に違和感を覚えたときからずっと俺の頭の中で響いていた。



S先生は




漫画家だった。


そして、Eさんも漫画家だった。

106: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:34:20.75 ID:hO9JYQSO


キツイ…

109: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:35:33.21 ID:zzIIcbc0
本当に、あの場でこんなことを思うなんて本当に不思議なんだけど、
俺はその二人を心の中で「お似合いだな」と思っていた。

二人は全てが上手く行っていた。

二人の人生は輝いていた。

二人は俺の夢を実現させていた。

二人の職業は漫画家だった。


そして、俺は、ただの漫画家アシスタントだった。

110: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:36:05.98 ID:eY27ggAO
EさんとSさんが出来てたのか…

115: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:38:10.96 ID:zzIIcbc0
結局俺はそのまま寝たふりをし、次の日の仕事もきちんとやりおおせてから帰宅した。


そして、もう誰とも連絡を取ることはなくなった。


大騒ぎになると両親に迷惑を掛けるから、短い事務的なメールだけをEさんとSさん。
そして担当編集に送った。



こうして俺の漫画家への夢は幕を閉じた。

125: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:43:43.31 ID:zFWxqNA0
終わりか?
曲がりなりにも八方塞から脱出できてよかったじゃん

130: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:45:34.60 ID:uH6MRV6o
え?終わり?
後日談はないの?

131: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:47:07.14 ID:zzIIcbc0
後日談。


何もかもを失った俺は立ち直るのに半年近くかかった。
でも半年で結構いい状態まで持ち直したと思う。

就職活動はそれからしてみたものの、やはりなかなか上手くいかず。
いちから何かを構築するということに、精神がもうめげてしまっているのかも。

ただ、運のいいことに(これは俺が立ち直るきっかけをくれた人でもあるんだけど)
漫画家志望友達が簡単なイラストの仕事を紹介してくれて、
その仕事が今に続いている。
食えるにはまだ程遠いけど、今は前よりも少し人前に出る自信が付いた。


近く始まると言っていたEさんの連載は未だに誌面を飾っていない。





長々と付き合ってくれてありがとうございました。

134: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:48:56.31 ID:RttlpVwo

143: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:52:29.45 ID:AwVILMQo
EとSからのメールの返信が気になる

144: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:53:14.37 ID:r1Lh1w6o
立ち直るきっかけくれる友達がいるのに崩壊とかありえない

147: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:56:01.82 ID:dPVAX5E0
誰か漫画にしろよ
ドラマ化決定すんだろこれ

149: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 15:56:26.86 ID:zzIIcbc0
補足。

本当に思いつくまま書きはじめたせいでレスを返せずごめんなさい。
これでも「待たせちゃいけない」と一生懸命打っていました。

完全な特定を防ぐために若干のフィクションを織り交ぜてます。
うpは今も絵の仕事をしているためできません。ごめんなさい。
(そもそもうpどうやるのか分かってない。出来たとしても微妙な反応しか返ってこないと思うww)
Eさんとは完全に連絡を絶ちました。多分バレたことに二人とも気付いてます。

151: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:58:28.80 ID:1avLAgY0
そうか、完全フィクションじゃないのか
今後のご活躍をお祈りします

153: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 15:59:42.40 ID:C11dVeE0
無理せず生きろよ

155: 1 ◆XvrFsyLRro 2010/09/13(月) 16:01:50.56 ID:zzIIcbc0
あとブラックの人ではないですww
僕も読みましたがあんなに文章上手くない。
でもそう思われたことは光栄です。
あと面白いといってくれた人もありがとう。(…というところなのかどうか分からないけど)


フィクションかどうか気になる人はフィクションだと思ってください。


にちゃんねるでこんなに文章書いたのは初めてです。
それこそブラックの人の気分を少しだけでも味わえて楽しかった。

…こんなとこかな?
ありがとうございました!
いつかまたどこかのスレでノシ

156: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 16:02:01.60 ID:c9L4CGYo
なかなか面白かった。>>1乙。

158: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 16:04:53.96 ID:kPvXvugo
釣り判定がどうのこうのとか関係なく
絵、見たかったな

159: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 16:06:03.71 ID:953VK9U0
おもしろかった乙!!…しかし俺も漫画家志望だからすごい怖いんだが…。

163: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 16:09:27.03 ID:WPQKPoAo
なんまいだぶつ。
同じく既に若くはない少年漫画家志望だけど、
絶対に諦めないで頑張らせていただく。
必ず成功するからな。

161: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2010/09/13(月) 16:08:24.77 ID:WeKBt660
おもしろかった!

無理せず仕事がんばれよ!


【その1】漫画家を目指した俺が崩壊するまでを粛々と語る
【その2】漫画家を目指した俺が崩壊するまでを粛々と語る




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引用元: http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1284190606/